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札幌地方裁判所 平成5年(行ウ)21号 判決 1994年10月13日

原告

芳賀耕一

被告

北海道知事 横路孝弘

右訴訟代理人弁護士

太田三夫

右指定代理人

寺田鉄司

堀田裕昭

日諸猛男

落合尚人

永井正博

千葉敦

長尾英治

佐々木一之

久門修

大渕康弘

鎌田兼三

主文

一  被告が原告に対して平成五年二月一六日付けでした公文書一部開示決定のうち非開示とした部分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

原告は、北海道内に住所を有する者であり、被告は、北海道知事として、北海道公文書の開示等に関する条例(昭和六一年北海道条例第一号。以下「本件条例」という。)二条一項の実施機関である。

2  本件処分の存在等

(一) 原告は、平成五年一月二九日、本件条例五条の規定に基づき、被告に対し、「(仮称)サホロカントリークラブ九ホール増設に係る事業者が提出した事前協議書及び新得町長が提出した意見書」(以下、それぞれ「事前協議書」「町長意見書」という。)の開示を請求した(以下、これを「本件請求」という。)。

事前協議書及び町長意見書は、「ゴルフ場開発の規制に関する要綱」(平成二年一一月一五日施行。以下「要綱」という。)に基づき、株式会社サホロリゾート及び新得町長から被告に提出されたものである。

(二) 被告は、本件請求に対して、別紙1記載のとおり、「町長意見書」のうち、調書5の開発事業者等の概要の年商額、主要取引銀行名、工事施行者名及び資金計画の概要の各部分(以下「本件文書1」という。)、「概要説明書」のうち、収支計画及び事業費内訳書の各部分(以下「本件文書2」という。)、「決算報告書」の全部(以下「本件文書3」という。)、地番図のうち個人の氏名の部分(以下「本件文書4」という。)「土地利用計画図」、「全体計画図」、「造成計画図1ないし3」、「コース内排水計画平面図1ないし3」、「排水工標準図及び樹林地等配置図」の各全部(順次「本件文書5」ないし「本件文書10」という。)について非開示とし、その余を開示とする一部開示決定(以下、非開示とした処分を「本件処分」という。)を行い、北海道知事職務代理者鈴木正明をして、平成五年二月一六日付け公文書一部開示決定通知書をもって原告に通知した。

(三) 原告は、本件処分を不服として、同年四月一七日、被告に対し、行政不服審査法六条により異議申立をした。

被告は、同年七月二三日に右異議申立を棄却する決定をし、同月二四日に決定書謄本を原告に送達した。

3  しかし、本件処分は、本件各文書が、何ら条例の非開示事由に該当しないにもかかわらず、条例八条一項本文あるいは九条一項本文に該当するとしてなされた違法なものである。

4  よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件各文書の成立経緯

(一) 要綱及びその事務処理要領等について

(1) 平成二年一〇月一日現在で、北海道には、一二三か所のゴルフ場があり、造成中や許認可手続中のゴルフ場六九か所を含めると一九二か所となり、そのほかに、市町村が相談されているゴルフ場計画も相当数あった。

これらのゴルフ場の大半が道央地域など一部の地域に集中することなどから、適正かつ合理的な土地利用の確保や自然環境の保全、生活環境の確保、災害防止などの観点から問題が生ずることが懸念され、このような問題を防止し、地域の健全かつ計画的な発展を図り、調和のあるゴルフ場開発を指導する必要があった。

(2) このことから、被告は、平成二年一一月一五日、ゴルフ場の開発事業の指導に関し、関係法令等に別に定めのあるもののほか必要な事項について定めることにより、自然環境の保全、良好な生活環境の確保及び災害の防止を図り、あわせて適正かつ合理的な土地利用に資することを目的として、要綱を制定し、同日付け北海道公報号外に北海道公告として登載するとともに、要綱の施行にあたり、円滑な運用を図るためにゴルフ場開発の規制に関する要綱事務処理要領を定めた。

(3) 要綱では、ゴルフ場及びそれに付帯する施設の建設のために、一団の土地について行う土地の区画形質の変更に関する事業(開発事業)は、当該事業計画が確実に施行される見込みがあると判断されるものであること、自然及び生活環境の保全並びに災害の防止等を図るための措置が講じられていることなど、開発事業の指導基準に適合するものでなければこれを認めないものとされ、開発事業の施行主体(開発事業者)は、当該開発事業に係る関係法令に基づく許認可等の申請等の手続の前に、当該開発事業の計画について、あらかじめ知事に協議するもの(第五1)とされ、開発事業の指導基準に適合していることを説明する資料等を添付して、当該開発地域に係る市町村長及び支庁長を経由して知事にゴルフ場開発事業事前協議書を提出するものとされている。

また、要綱では、知事は、ゴルフ場開発事業事前協議書を受理したときは、北海道土地・水対策連絡協議会の審議を経たうえ、その内容を審査し、その結果を支庁長及び市町村長を経由して、開発事業者に通知するものとされている(第五6)。

(二) 事前協議書及び町長意見書について

(1) 要綱第五1の規定に基づき、株式会社サホロリゾート(以下「本件開発事業者」という。)から、その所有する上川郡新得町字新内西四線一七八番地ほか七九筆の土地四六万一三一〇平方メートルを事業用地として、既設のゴルフ場であるサホロカントリークラブに九ホールを増設する事業計画について、ゴルフ場開発事業前協議書(前記にいう「事前協議書」)が、平成四年一〇月一六日付けで要綱第五2で定める経由機関である新得町長に提出された。

(2) 新得町長は、本件事前協議書に、要綱第五3により、当該開発計画は、地域振興上欠くべからざる事業として位置づけられており、定住人口増、雇用創出、地域活性化の点から早期に完成を期待するものである等の意見を付して、平成四年一二月一八日付けで要綱第五2で定める経由機関である北海道十勝支庁長(以下「十勝支庁長」という。)に提出した(提出された書面が前記にいう「町長意見書」である。)。

(3) 十勝支庁長は、本件事前協議書に、要綱第五5により、本ゴルフ場の開発計画については、要綱で定める開発事業の指導基準等に概ね適合していると認められ、特に支障はないと判断される等の十勝支庁長の意見を付して、平成五年一月二一日付け十振第三九五号で町長意見書とともに北海道知事に提出した。

2  本件処分の適法性

(一) 公文書開示請求権の性質について

公文書開示請求権は、本件条例により初めて認められた権利であり、一般的・包括的な公文書開示請求権なるものが当然に認められているわけではなく、本件条例に定められた要件のもとにのみ認められた権利であるから、その条文中に公開を認めない場合が規定されているときは、そのような非開示文書を除外した公文書の公開請求権が具体的な請求権として付与されているとみるべきである。

そして、具体的な公文書開示請求に対して、開示が認められるか否かは、法文解釈の一般原則と本件条例三条の趣旨に従って、開示又は非開示の要件を定めた本件条例の各条項の文言を合理的に触釈運用して判断されるべきであり、それ以上に条文に定められていない要件を加えて判断すべきではない。

(二) 通達による運用について

本件条例八条一項本文に規定する特定個人情報が記録されている公文書については、同二条一項に規定する実施機関は、同八条一項ただし書に該当するものを除き、すべてこれを開示してはならないと規定しているものと解すべきであり、また、同九条一項本文においても、法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報及び事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示することにより、当該法人等及び当該事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位又は社会的な地位が損なわれると認められるものが記録されている公文書については、これを開示しないことができる権限を与えている。

そして、被告は、これらの条文の解釈と運用に当たっては、本件条例の趣旨及び解釈並びにその運用について定めた「北海道公文書の開示等に関する条例の施行について」(昭和六一年九月二四日付け文書第二一五七号総務部長通達。以下「通達」という。)によって公文書の開示又は非開示に係る処分を行っている。

(三) 本件条例八条一項本文該当性について

(1) 本件条例八条一項本文は「特定個人情報」が記載されている公文書は、同項ただし書の場合以外は開示してはならないと定めている。これは、「特定個人情報」が記載されている公文書は無条件に非公開と定めているということである。

通達においては、本件条例八条一項本文の「個人に関する情報」とは、「思想、心身の状況、学歴、成績、親族関係、財産の状況、所得その他一切の個人情報をいう。」とされ、また、「特定の個人が識別され、又は識別され得る」とは、「特定の個人であると明らかに識別され、又は識別される可能性がある場合をいう。氏名等のように個人が直接識別できるような情報はもとより、他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され得る情報も本項本文に規定する特定個人情報に該当するものである。」とされている。

(2) 本件文書4は、本件開発事業者が独自に土地登記簿謄本の情報や測量・調査の結果等により加工・作成の上提出したもので、個人の氏名が記載されている点において特定個人情報に該当することはもとより、通達にいう土地の権利者としての個人の「財産の状況」を示す情報であって特定個人が識別されることも明らかである。そこで、被告は本件条例八条一項本文に基づき、本件地番図に記載されている増設計画区域外の個人の氏名を開示しないこととしたものである。

(四) 本件条例九条一項本文該当性について

(1) 本件条例九条一項本文は、開示することにより法人等の競争上若しくは事業運営上の地位又は社会的地位が損なわれると認められる情報が記録されている公文書については、同項ただし書の場合以外は、これを開示しないことができると定めている。この開示しないことができる権限とは、開示請求にかかわる公文書が、開示しないことができる公文書に該当する場合において、なお当該公文書を開示することができる権限までも実施機関に与えた趣旨ではない。この適用に当たっては、具体的には当該情報が法人等の生産技術上のノウハウ等の事項に属する情報、販売又は営業上の事項に属する情報、経理・労務管理等の法人等が事業活動を行う上での内部管理上の事項に属する情報等に該当する情報であって、開示することにより当該法人等の事業運営等が損なわれると、一般的抽象的に認められるか否かを基準に判断すれば足りる。

通達において、本件条例九条一項本文の「競争上若しくは事業運営上の地位又は社会的な地位が損なわれると認められるもの」は、「ア 法人等又は事業を営む個人の保有する生産技術上のノウハウ等の事項に属する情報、販売、営業上の事項に属する情報等であって、開示することにより当該法人又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの イ 経理、労務管理等の法人等又は事業を営む個人が事業活動を行う上での内部管理上の事項に属する情報であって、開示することにより当該法人又は事業を営む個人の事業運営等が損なわれると認められるもの」とされている。

(2) 本件文書1ないし3は、法人が事業活動を行う上での内部管理上の事項に属する情報であることは明らかであり、これらの情報が開示されると、次のとおり、当該法人の事業運営が損なわれると認められるものである。

<1> 企業が一般的に緊密な関係を必要とする銀行及び施工業者という取引先について、その企業がどのような銀行又は施工業者と取引しているかは企業内部の秘密に値するものであり、これが開示されることによって、他の銀行又は他の施工業者が、当該企業と取引先との関係に参入しようと試みることとなり、これまで安定的に築かれてきた企業と取引先との信頼関係を損なうおそれがある。特に主要取引銀行とその取引企業との間には、通常、預金取引を含め金銭貸借関係があることが容易に推測され、これに伴う関係事業情報の交換等を行うことも通例である。企業にとって、このような資金及び事業情報の流れは、現在の経済社会において極めて重要なものであり、もし、企業の主要取引銀行が容易に明らかになると、この主要取引銀行への当該企業の各種事業に反対する団体による宣伝活動など有形無形の圧力等により、当該企業に対する資金及び事業情報の流れが停止するおそれがある。

一方、その取引銀行の立場としても、当該企業との取引関係が明らかになると、他銀行がその取引銀行の貸付条件より有利な貸付条件を当該企業に示し、当該企業の取扱銀行として参入を図ろうとする機会が生じることになり、競争上の地位においてその事業活動が損なわれることが容易に推測される。そして、このような事態によって、当該企業と取引銀行の信頼関係にも支障が生ずるおそれがある。

<2> 資金計画の概要及び収支計画は、これを開示するとその事業費、年度別における企業の資金繰りが判明するため、当該事業及び企業全体の経営戦略等が明らかとなり、同業他者との関係において、当該企業の事業運営上支障が生じることになる。

事業費内訳書は、計画の段階でこれを開示すると、工事施工業者の個別の事業単価や施工費、その総事業費が明らかになることにより、その工事施工業者より安価に施工することを計画する同業他者が現れる可能性があり、事業費内訳書の作成者である工事施行業者が、発注者からの今後の本格的な工事受注段階での競争において不利となるおそれがある。また、施工業者の当該事業に係る単価が判明することにより、これよりも安価な事業費で同業他者が当該事業以外の一般的な受注に参入しようとし、事業費内訳書の作成者である工事施工業者が他の工事受注等の競争で不利になるおそれがある。

さらに、これにより施工業者の発注者に対する経営戦略や企業努力などが判明することになり、その施工業者と他の発注者との間の信頼関係にも文障が出るおそれがある。

<3> 年商額や決算報告書は、開示することにより、企業の経営規模、財務の体質、資産内容等の内訳までが詳細に明らかになる。

決算報告書のうち、貸借対照表及び損益計算書の情報の中には、本来外部には知らせる必要のない人件費や福利厚生費などの企業として自由に決定すべき範疇に属する情報や、売上原価、利幅及び資産の運用形態などの経営戦略に関わる情報が含まれており、これが明らかになれば、同業他者の参入等が予想され、当該企業の事業運営上の地位が損なわれるおそれがある。

また、貸借対照表により資産及び負債の内訳、損益計算書により人件費、広告費などの費用と損益の内容などが明らかとなり、企業の事業運営の状況が、同業他者にも知られることになる。これにより、第三者の恣意的な経営分析等が行われ、その結果の一方的な公表等により、当該企業の偏った評価がなされることとなり、当該企業の株主、債権者等に無用の混乱を与えることが予想される。そして、この種の情報の開示により、系列会社の決算報告書との比較などが行われ、人件費の相違などを巡って、系列会社間の従業員で紛争を生じること、借入金等について、貸主等に疑心暗鬼を生じ、根拠のない信用不安から、貸出金の引き上げという事態が起きることなどが予想される。

(3) 本件文書5ないし10は、計画予定のゴルフ場のコース配置及び形状等を確認できるものであるから、当該法人の保有するノウハウ等の事項に関する情報に属することは明らかである。

そして、これらの文書は、製造業でいえば、いわば新製品にあたり、画一的になりがちな施設設計の中で、同業他者との差別化を図るため、本件開発事業者が、実験な実践を重ねながら独自の手法により構築した設計であり、その詳細が計画段階で明らかになることにより、企業の経営戦略に支障が生じるおそれがある。また、その新しいレイアウトの特徴、優位性、導入予定の新技術等を、新たに造成する場合より容易であるため、既存のゴルフ場等で模倣されるおそれがあり、この点において当該法人の事業活動が損なわれると認められるものである。

3  以上のとおり、本件処分は、適法になされたものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2(一)は争う。

3  同2(二)のうち、通達の内容に関する部分は認めるが、その余は争う。

4  同2(三)の主張は争う。

5  同2(四)の主張は争う。

五  原告の反論

1  公文書開示請求権の性質

本件条例は、憲法二一条や市民的及び政治的権利に関する国際規約に基礎を置く「知る権利」を公文書開示請求権として現実に具体化したものである。

情報公開制度は、すべての公文書について原則公開を基本とするものであり、本件条例は二条で定義した公文書について、五条で一般的・包括的な公文書開示請求権を認めた上で、八条及び九条において例外的に公文書開示請求権を制約できる場合を規定している。これらの要件を満たす公文書だけが非開示相当と認められるのであり、特別に開示の要件が存在するのではない。

2  本件条例の基本的趣旨

本件条例は、「道民の公文書の開示を請求する権利を明らかにするとともに、公文書の開示等に関し必要な事項を定めることにより、開かれた道政を一層推進し、もって道民の道政に対する理解と信頼を深め、地方自治の本旨に即した道政の発展に寄与すること」を目的とし、またその解釈及び運用については、「実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、道民の公文書の開示を請求する権利を十分尊重するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。

また、情報公開制度は、行政への住民参加の促進、能率的な行政運営の推進、行政に対する住民の監視機能の強化等、多くの機能を有し、効果をもたらす多面的な意義を有するものであるから、情報公開制度は、すべての公文書について公開するのを原則とするべきものである。ただ、多種多様な公文書のなかには、その内容が公にされることにより、個人のプライバシーが侵害されたり、公正、円滑な行政運営に支障が生ずるなど、どうしても開示することが適当でないものもある。

このように、開示請求権と他の利益及び公益との調和を図る意味から非開示公文書については、できる限り具体的かつ明確に規定するとともに、その範囲を合理的な理由に基づく必要最小限に限定することが要請されている。そこで、本件条例八条及び同九条を適用する場合には、利益侵害の危険性が具体的に存在することが明白である合理的根拠、開示による利益侵害の程度が、非開示により失われる開示請求権及び公益を上回るという客観的根拠が、具体的かつ明確に示されなくてはならない。

3  本件各文書と非開示理由の不存在

(一) 本件条例八条一項本文該当性について

個人に関する情報として非開示とされたのは、本件文書4である。

本件条例八条一項では、法令等の規定により何人でも取得できる情報は特定個人情報から除外されている。そして、通達によると、この法令等の規定により何人でも取得できる情報とは、不動産登記簿の謄本のように、法令等により何人でも閲覧等をすることができると定められている公簿の謄本等に記載されている個人情報をいうとされている。

本件文書4にかかる情報は、不動産登記法二一条により何人でも取得できる情報であり、これを開示しても当該個人に対して何ら損害を与えるものではない。

本件条例八条一項の解釈及び運用に当たっては、個人のプライバシーを最大限保護することを原則としなくてはならないが、条例八条一項ただし書によると、公益を優先する場合も存在している。

よって、本件処分のうち、本件文書4を非開示とした処分は違法である。

(二) 本件条例九条一項本文該当性について

(1) 法人の内部管理上の事項に関する情報として非開示とされたのは、本件文書1ないし3である。

<1>本件文書1について

「ゴルフ場開発の規制に関する要綱」は、ゴルフ場開発を認めるための要件の一つとして「当該事業計画が確実に施行される見込みがあると判断されるものであること」を掲げている。

町長意見書には、「当該開発計画は、本町と十分な連携のもとに計画した狩勝高原サホロリゾート開発事業の一部であり、事業者の地域振興への熱意、資金力、信用は高く確固たる信念のもとに事業遂行を進めており実現性は確実である。」と記載されている。非開示文書1の開発事業者の年商額、主要取引銀行名、工事施工者名及び資金計画の各部分は、その裏付け資料として添付されたものであり、開発事業者の資金力、信用を裏付ける情報であるから、「開示することにより当該法人の競争上若しくは事業運営上の地位が損なわれる」ことは考えられない。

また、年商額、取引銀行名などは企業に関する基礎的情報であり、パソコン通信のデータベース等でも入手することができるものである。

法人又は事業活動を営む個人はその活動上、広範囲に対外的な関わりを有するから、その活動の中で積極的に又は必然的に第三者に知られる機会が多く、本件開発事業者の取引銀行名あるいは施工業者名などは、他の銀行又は他の施工業者にとって容易に知ることができる情報である。これらの情報の開示により本件開発事業者の事業活動を損なうおそれは全くない。

また、他の銀行又は他の施工業者が当該企業と取引先との開係に参入しようと試みること、他銀行がその取引銀行の貸付条件より有利な貸付条件を当該企業に示し、当該企業の取扱銀行として参入を図ろうとする機会が生じることは、企業活動として当然のことである。これらは企業秘密に属する情報ではなく、開示により正当な事業活動を損なうおそれは全くない。

本件文書1にかかる情報は、企業の社会的責任を思料すれば秘匿すべき情報とはいえず、開示することにより当該法人の競争上若しくは事業運営上の地位が損なわれる具体的根拠もないから、条例九条一項本文を根拠とする本件処分に理由はない。

<2> 本件文書2について

「概要説明書」のうち、収支計画の部分については、同内容と推察されるものが新得町議会に提出されている。これによると、非開示にされたのは、「ゴルフ場工事費二九億円は全額自己資金でまかなう。」という情報である。二九億円の自己資金があるという情報は、本件開発事業者の資金力に対する信用を高めることはあっても、本件開発事業者の「競争上若しくは事業運営上の地位が損な」われることは考えられず、本件条例九条一項本文を根拠とする本件処分に理由はない。

また、「概要説明書」のうち、事業費内訳書の部分について、被告は、工事事業者の個別の事業単価や施工費、その総事業費が明らかになることにより、その工事施工業者より安価に施工することを計画する同業他社が現れる可能性があると主張するが、これによると、開発事業者は当該情報を他の工事施工業者に知らせることで利益を得る可能性があるのであるから、開発事業者が当該情報を他の工事施工業者に隠す理由はなく、被告の主張は理由がない。

<3> 本件文書3について

事業者の経営状況は、開発事業が地域振興という大義により多額の公共投資を伴っている以上、また、商法二八三条三項の趣旨からも本件条例九条一項三号で定めた「開示することが公益上必要であると認められる」情報に当たるというべきである。

ゴルフ場開発による環境破壊、預託金制度、開発事業者の倒産等が大きな社会問題になっているため、要綱はゴルフ場開発を規制の対象としたものであり、もし事業者の虚偽申告あるいは行政の誤った判断があれば、道民の生活は不当に侵害されることになる。損益計算書の開示は「事業者の申告に虚偽がないこと」「行政の判断が正しいこと」を明らかにするために不可欠であり、本件条例九条一項ただし書三号の「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある侵害から道民の生活を保護するために、開示することが公益上必要であると認められるもの」に該当するから、同条項本文を根拠とする本件処分に理由はない。

貸借対照表は、当該企業の財政現状、支払能力及び担保能力等を判定する上に最も重要な資料になるものであり、損益計算書は、純損益の発生原因や過程を明らかにし、経常的収益力とともに、企業全体の損益を示すことによって、将来の経営活動に関する重要な指針を示すものであるから、貸借対照表・損益計算書の開示は、偏った評価、無用の混乱、疑心暗鬼、根拠のない信用不安を防止することになるのであり、被告の主張は矛盾している。

(2) 法人の保有するノウハウ等の事項に関する情報として非開示とされたのは、本件文書5ないし10である。

要綱は、自然及び生活環境の保全並びに災害の防止等を図るために必要な措置を義務付けている。これらは、ゴルフ場開発によって、人の生命、身体及び健康に危害が生ずるおそれがあることを裏付けるものである。ゴルフ場開発に係る情報は本件条例九条一項ただし書一号の「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体及び健康を保護するために、開示することが必要であると認められるもの」に当たり、同条項本文を根拠とする本件処分に理由はない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因1(当事者)及び同2(本件処分の存在等)並びに被告の主張1(本件各文書の成立経緯)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各文書が、本件条例の非開示事由に該当するか否かについて、判断する。

1  〔証拠略〕によれば以下の事実が認められる。

(一)  本件請求にかかる事前協議書は、表紙とこれに続く平成四年一〇月一六日付けの「ゴルフ場開発事業事前協議書」と題する一枚の書面の後に「概要説明書」が添付され、その中に別紙1の文書名欄3ないし10記載の文書も含まれている。また、本件請求にかかる町長意見書は、新得町長作成の七枚の本体部分の後に右「概要説明書」が添付されている。

(二)  町長意見書は、本件開発事業者から、要綱に基づき、事前協議書が上川郡新得町長に提出されたので、同町長が、これを別紙として添付するとともに、開発事業に対する個別意見(市町村の土地利用計画等との適合性、環境等の保全、防災対策、地域振興上の効果、開発事業の実現性について)及び総合意見を付して被告宛に提出した文書である。

(三)  町長意見書のうち非開示とされたのは、新得町長作成の七枚の本体部分のうち、開発事業の実現性について記載した調書5の一部であるが、具体的には、別紙3の表の黒く塗りつぶされている部分であり、その内容は、本件開発事業者である株式会社サホロリゾート、その親会社である西洋環境開発株式会社及び関連会社である狩勝高原開発株式会社の年商額及び主要取引銀行名、工事施工者予定者の名称並びに資金計画の概要のうちの金額である。

(四)  「概要説明書」の収支計画のうち、非開示とされたのは、各収入及び支出科目の金額及び合計金額であるが、具体的には別紙4のとおりであり、収入は全額が自己資金で二九億円、支出は全額がゴルフ場工事費で二九億円となっている。また、事業費内訳書は、工事施工業者の個別の事業単価や施工費、その総事業費を明らかにしたものである。

(五)  「決算報告書」は、本件開発事業者の貸惜対照表及び損益計算書であるが、これらの文書は、商法上、取締役が定時総会に提出して株主総会の承認を求めることが要求されており、貸借対照表又はその要旨は、公告が義務づけられ、株主及び会社債権者はこれを閲覧できることになっている。

(六)  本件「地番図」は、別紙5のとおりであり、地番のみが記載された地番図に、本件開発事業者が独自に登記簿等の他の情報を組み合わせることによって、開発区域に隣接する土地について、地番ごとの土地権利者名を識別できるようにしたものである。この地番図のうち、開発区域外の土地権利者である個人の氏名が非開示とされた。

(七)  本件「土地利用計画図」は、別紙2のとおりであり、ゴルフ場のコースの配置、形状等の概略がレイアウトされている。「全体計画図」、「造成計画図一ないし三」、「コース内排水計画平面図一ないし三」、「排水工標準図」及び「樹林地等配置図」が、具体的にどのようなものであったかは、非開示とされたため明らかでないが、本件開発計画は、右の狩勝高原サホロリゾート開発事業の一部であること等からすると、本件文書6ないし10は、本件開発事業者等が作成した「狩勝高原サホロリゾート開発事業に係る環境影響評価書(修正版ごに添付された施設配置図、緑化計画図、造成計画図、雨水排水計画図及び農薬流出防止施設フロー等の図面と大差のないものであると推認される。

2  本件条例八条一項該当性について

本件条例八条一項本文は、「実施機関は、開示請求に係る公文書に、個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものが記録されているときは、当該公文書の開示をしてはならない。」旨規定しているが、同時にこのような個人に関する情報であっても、「法令及び他の条例の規定により何人でも取得することができる情報並びに公表をすることを目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」を括弧書によって、右の開示してはならない個人情報から除外している。

本件地番図は、前記1(六)で認定したとおりの内容を有するものであり、このうち個人の氏名は、不動産登記法二一条により法務局で閲覧できる地図、建物所在図に、同じく法務局で閲覧できる登記簿の情報を組み合わせることによって容易に得られる情報であると認められるから、本件条例八条一項本文において、開示してはならない個人情報から除外されている右の「法令及び他の条例の規定により何人でも取得することができる情報」に該当することは明らかである。

よって、本件文書4にかかる情報は、本件条例八条一項ただし書に該当するか否かを判断するまでもなく、そもそも同条項本文の特定個人情報に該当しないというべきであり、本件処分のうち本件文書4を非開示とした部分を適法と認めることはできない。

被告は、本件地番図は、本件開発事業者が土地登記簿謄本等に基づき独自に作成したものであり、土地登記簿謄本そのものとも、また登記所に備え付けられている地図とも異なるから、不動産登記法の規定により何人でも取得することができる情報には当たらない旨主張する。しかしながら、法令等の規定により何人でも取得することができる「情報」とは、情報を媒介する媒体そのものを指しているのでなく(通達第八条関係第1項1(5))、本件文書4にかかる情報は登記簿謄本に記載された情報と異なることはないと思料されるのであるから、本件文書4にかかる情報は不動産登記法の規定により何人でも取得することができる情報ということができるのであって、被告の右主張は失当である。

3  本件条例九条一項該当性について

本件条例は、三条後段及び八条において、プライバシー保護の観点から、個人に関する情報を情報公開原則の例外として規定しているが、これに加えて、事業者利益保護の観点をも取り入れ、事業等に関する情報であって、開示することにより、法人等の競争上若しくは事業運営上の地位又は社会的な地位が損なわれると認められるものについては、「開示をしないことができる」と規定している(九条一項本文)。

しかし、本件条例は、一条で規定した情報公開の原則に照らし、右のような事業者利益保護の観点からの非開示についても制限を設け、九条一項に該当する情報であっても、「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある侵害から道民の生活を保護するために、開示することが公益上必要であると認められるもの」等は非開示とすることはできないと規定している(九条一項三号等)。したがって、道民からの開示請求にかかる情報が本件条例九条一項本文に該当する情報であっても、同項ただし書に該当するか否かを検討したうえ、開示の当否を考える必要があるというべきである。そして、このような検討を行うには、開示することによって損なわれる事業利益等と開示することの公益上の必要性とを個々具体的に比較考量して行うほかはないというべきである。

(一)  まず、本件文書1ないし3が開示されることによって損なわれる利益について、検討する。

(1) 本件文書1のうちの年商額・主要取引銀行の部分及び本件文書3について

〔証拠略〕によると、「帝国データバンク企業一覧情報」には、本件開発事業者である株式会社サホロリゾート、その親会社である株式会社西洋環境開発及びこれらの関連会社である狩勝高原開発株式会社の年商額及び取引銀行が記載され、また日本経済新聞社発行の「会社総鑑」未上場会社版下巻にも、右株式会社西洋環境開発の資本金、貸借対照表、損益計算書、財務指標、最近の業績及び取引銀行等が紹介されているから、本件文書1のうちの年商額や主要取引銀行名は、容易に入手できる情報であることが認められるから、これらの点が本件請求に基づく開示によって損なわれる利益は少ないものということができる。また、本件開発事業者の決算報告書の貸借対照表及び損益計算書は、商法上、株主総会に提出してその承認を求めることが要求された文書であり、また貸借対照表又はその要旨は、同法により公告することが義務付けられ、株主及び会社債権者はこれを閲覧することができることになっているのであるから、本件文書3も開示によって損なわれる利益は少ないものということができる。

(2) 本件文書1のうちの工事施工者名の部分について

〔証拠略〕によれば、要綱は、開発事業者に対し、事前協議書を「当該開発事業に係る関係法令に基づく許認可等の申請等の手続の前に」提出することを義務付けているところ、要綱事務処理要領においては、この時期は、関係市町村とゴルフ場の立地について合意が得られるとともに、事業計画書に記載される内容が指導基準に概ね適合すると判断できる状態になった時点を指すとされていること、したがって、関係行政機関や各種団体への説明又は協議を行わなければならないため、事前協議書の提出に至るまでは当初の時点からかなりの期間が経過するものであること、事前協議の対象となるゴルフ場はいわゆる本格的な規模のゴルフ場であり、しかも工事施工に当たっては、土砂の移動量に制限を受けたり、グリーンやティーグランドは構造そのものを農薬吸着層とすることを要求されたりする等、ゴルフ場造成の特殊な知識経験を必要とするものであることが認められる。右事実によると開発事業者と工事施工者との関係は、事前協議書が提出される段階では相当緊密なものとなっており、しかも代替できる業者が少ないうえ、事前協議書に記載した以上他の業者に安易に変更することもできないのであるから、本件文書1のうちの工事施工者名を開示したからといって、損なわれる利益というものは殆ど考えられない。

(3) 本件文書玉のうちの資金計画の概要の部分及び本件文書2について

資金計画の概要、収支計画及び事業費内訳等は、開発事業者又は工事施行者にとっては、他人特に同業他者には知られたくない事項であって、これが開示されると、一般的には、被告主張のように、右の者が今後の競争等において不利となるおそれがあるということができる。

しかしながら、本件において具体的に考えてみると、資金計画の概要については、別紙3から明らかなように、支出欄が実質的には平成五年及び平成六年のコース造成費、平成五年の防災工事費、平成六年の建築費、平成五年のその他という五項目、また収入欄が実質的には平成五年及び平成六年のその他という二項目にすぎないこと、しかも項目名自体が極めて概括的なものであること等の点からすると、同業他者がこれをみて事業上の参考になりうるかどうかは疑問がある。また、収支計画も、原告が別途入手した資料である別紙4によると、実質的な記載内容は、収入として自己資金が二九億円、支出としてゴルフ場工事費が二九億円というものにすぎないのであるから、同業他者がこれをみて事業上の参考になりうるかどうか、これが開示されることにより開発事業者が今後企業運営上支障を生ずるかどうかは疑問がある。事業費内訳書は、前記認定のとおり、工事施工者の個別の事業単価、施工費、その総事業費が記載されたものであるが、これ以上の具体的なことは明らかではない。しかし、ゴルフ場造成にかかる事業単価、施工費及び総事業費等は、造成にかかる土地の地形、面積だけでなく、その造成程度、建物等各種設備の整備如何に大きく作用されることは明らかであるから、同業他者が本件開発地域についての事業単価、施工費及び総事業費を知ることができたとしても、そのメリットはさほどのものではなく、したがって工事施工者がこれらのことが明らかになって損なう利益もさほどのものとは考えられない。

(二)  次に、本件文書5ないし10が開示されることによって損なわれる利益について、検討する。

本件文書5の内容は既に認定したとおりであり、計画段階においてこれらが明らかになることにより本件開発事業者が何らかのデメリットを受けるといえるが、原告が別途入手した資料(別紙2)によると、本件文書5に記載された計画予定のゴルフ場のコース配置及び形状は概括的なものであり、主に本件開発地域の地形等に影響される内容が記載されているにすぎない。この程度の記載内容の図面が開示されたところで、本件開発事業者は、何らかのデメリットを受けるとしても、その程度はさほどのものとは認められない。

本件文書6ないし10については、その内容は明らかでないが、前記認定のとおり、環境影響評価書(甲第三五号証)に添付された施設配置図、緑化計画図、造成計画図、雨水排水計画図及び農薬流出防止施設フローと大差のないものであると推認されるし、また、前記土地利用計画図の記載内容からしても、図面自体で本件開発事業者独自のノウハウ等が明らかになるよう詳細なものとは考えられないので、これらの文書が開示されることによって本件開発事業者が受けるデメリットはさほどのものとは認められない。

(三)  開示されるべき公益上の必要性について

〔証拠略〕によれば、要綱が定められる以前のゴルフ場開発においては、開発許可をした件数のうち約二割のものが事業者の資金計画等に支障を来して工事未着手又は長期にわたる工事中断に至り、その結果開発区域が荒れた状態となり、土砂が流出したり、小規模な洪水が起こる等環境保全上好ましくないことが生じたこと、要綱は、このような事態に陥るのを避け、自然環境の保全、良好な生活環境の確保及び災害の防止を図ること等を目的として定められたものであること、そして、要綱は、当該事業計画が確実に施行される見込みがあると判断されるものでなければ、開発事業として認めないことを指導基準の一つとしていること、要綱は、当該開発事業の実施等に当たっては地域住民の理解と協力を得て行うよう努めることを開発事業者の責務としていること、このため、本件開発事業者は、本件開発地域にかかる地元住民や自然保護団体等の各種関係団体に対し、説明会を開催したり、協議を行っていること、そしてその中で農薬のゴルフ場外への流出問題、造成に当たっての樹林の移植等が活発に議論されていること、以上の事実が認められる。

このような事実からすると、開発事業者の経営規模、経営内容、資金計画、工事施工者、開発に注ぎ込まれる事業単価等事業費内訳、開発地域の開発後の具体的状況等は、開発地域及びその周辺地域における環境保全及び良好な生活環境の確保に密接に関連するものということができる。そして、本件開発地域周辺の住民がこれらの情報に強い関心を抱くことがあることも当然といえる。

以上の点から明らかなように、地域住民としては、本件開発事業によって生じるおそれのある開発地域やその周辺における自然環境や良好な生活環境の破壊からその生活を守るために、自然環境の保全及び良好な生活環境の確保等と密接に結びついた情報の開示を求める必要性が大きいといわなければならない。したがって、かかる開示が、自然環境の保全及び良好な生活環境の確保という公益に資するものであることは明らかである。

(四)  以上の事実をもとに、本件文書1ないし3及び5ないし10の非開示相当性について、検討すると、仮にこれらの文書が本件条例九条一項本文に該当するものであったとしても、前記認定のとおり、これらが開示されることによって損なわれる利益は殆どないか、あるにしてもさほどのものではないのに対し、他方これらを開示する公益上の必要性は大きく、これらの文書は本件条例九条一項ただし書の三号に該当するものであって、非開示とすることは許されないというべきである。

被告は、これらの文書の本件条例九条一項本文該当性について主張するのみで、これらの文書の同項ただし書該当性すなわち開示することの公益上の必要性等については何ら検討するところがない。しかしながら、前記説示のとおり、本件条例は、公文書については開示することを原則とし、九条一項本文に該当するものであったとしても、同項ただし書に該当する場合には非開示とすることは許されないと規定しているのであるから、本件において、被告は本件文書1ないし3及び5ないし10が同項ただ書し(1)ないし(3)に該当するか否かをも検討しなければならなかったものである。

4  以上のとおり、本件文書4は本件条例八条一項本文に該当するものではなく、その余の本件各文書は本件条例九条一項本文に該当するとしても同項ただし書の三号に該当するものであり、いずれも非開示とすることが許されないものであるから、これらを非開示とした本件処分は違法であって、取消しを免れない。

三  よって、被告が本件各文書を非開示とした本件処分は、違法であるから、これを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 菅野博之 寺西和史)

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